2012年5月31日
文化庁長官 近藤 誠一 殿
映画演劇労働組合連合会(略称・映演労連)
中央執行委員長 金丸 研治

2012年日本映画振興に関する要望書

 2011年の映画興行収入は、東日本大震災や原発事故などか影響して1811億9700万円に落ち込み(前年比82.1%)、入場者数も1億4472万6000人まで減り、スクリーン数は73も減って18年ぶりに減少に転じました。
 1812億円という興行収入は1999年とほぼ同水準ですが、1スクリーン当たりの興収は1999年当時より約2800万円も減って5427万円に落ち込みました。映画館の経営破たんは、今年はさらに進むおそれがあります。
 また、映画産業を支えてきたDVDソフト市場も縮小を続け、日本映画の再生産システムの重要な一角が壊れ始めています。急激なデジタル化も、インディペンデント系興行会社やフィルム現像所の経営を危機に陥れています。
 私たち映演労連は、今ほど日本映画の振興に向けた公的支援の拡充が必要な時はないと考えます。私たちは、下記の通り日本映画への公的支援のいっそうの拡充と、効果的な日本映画振興策の実施を強く求めるものです。ぜひとも前向きなご検討をお願い申し上げます。

(1) 日本映画への公的支援を最高時に戻してください

 文化庁、並びに日本芸術文化振興会による日本映画への支援は、年々減少しています。しかし日本映画の現状は、公的支援のいっそうの拡充を求めています。来年度予算では、日本映画への支援額をせめて最高時に戻してください。

(2) 「映画製作支援事業」と「アニメーション映画製作支援事業」の拡充を

 日本映画文化への公的支援の柱である「映画製作支援事業」と「アニメーション映画製作支援事業」も支援額が減少しています。これも最高時に戻すよう要請します。
 また、24年度「国際共同製作映画支援事業」の予算を明らかにするともに、国際共同製作映画支援事業費を映画製作支援事業の別枠にしてください。

(3) 「子どもの映画鑑賞普及事業」を復活するとともに、学校での映画教育を

 これからの映画観客を育てるために、以前に実施されていた「子どもの映画鑑賞普及事業」を復活するとともに、学校での映画教育を実現してください。

(4) 「日本映画上映支援」事業を拡充し、国民が映画文化に接する機会均等の保障を

 国は、日本国民に映画文化に接する機会の均等を保障する義務があります。しかし「日本映画上映支援」事業は、芸術文化振興基金の「果実」による事業とされ、微々たる額でしか実施されていません。
 私たちは多様な映画の鑑賞機会を保障するため、「日本映画上映支援」事業を文化庁の事業に戻し、拡充することを求めます。

(5) 本格的な人材育成策の実施を

 平成16年度から始まった「映画スタッフ育成事業」は、映画製作をめざす学生に2〜3ヶ月の実践の場を提供するにとどまっており、本格的な人材育成策とは言い難いものがあります。
 私たちは、映画業界と連動した本格的な人材育成制度の実施を求めます。また、撮影所や製作プロダクションでの人材育成を支援する制度をぜひ実現してください。

(6) 映画原版の保存について支援を

 映画の原版保存は、制作プロダクション任せになっています。また、デジタル制作される映画が増えていますが、デジタル原版の保存様式はバラバラです。富士フィルムが開発した保存専用アーカイブフィルムがハリウッドで評価されていますが、日本の中小プロダクションがそれを採用するには経費的に無理があります。
 このままでは将来、日本映画のコンテンツが失われかねません。デジタル映画を含めた映画原版の保存方法について映画業界と行政が至急協議し、原版保存の標準規格を確立するとともに、原版保存について国の公的支援を強く要請いたします。

(7) 消費税増税について

 政府は今、消費税増税法案を国会に提出していますが、1スクリーン当たりの興収が5427万円に落ち込んでいる映画館に10%の消費税が課せられたら、映画館は経営が立ちいきません。消費税増税は映画館の経営に致命的な打撃となります。
 私たち映演労連は消費税増税に反対ですが、映画館の経営を守るためにも消費税増税法案の廃案を求めます。また、仮に消費税増税法案が成立した場合には、映画館経営を守るために特別の措置を講じるよう要請いたします。

(8) 制作プロダクション、撮影所、興行会社などへの支援策を

  1.  中小の制作プロダクションや配給会社の経営を守るため、「原版担保制度」による低金利の融資制度の設立、映画投資への減免税措置などの支援策を要請します。
  2.  映画館が行う設備投資やリニューアル、デジタル化についての支援策の実施を求めます。また映画館の固定資産税の減免についてもご検討をお願いいたします。
  3.  撮影所、ポストプロ、フィルム現像所などが行う設備投資やデジタル化についての支援策の実施を求めます。また撮影所の固定資産税の減免についてもご検討をお願いいたします。

(9) 時代劇づくりの職能と制作基盤維持に支援を

 42年間続いてきた日本最長寿のテレビ時代劇「水戸黄門」が昨年終了し、民放での連続テレビ時代劇がなくなってしまいました。
 この事態は、時代劇づくりを支えてきたスタッフを消失させ、カツラ、衣装、小道具、殺陣などの協力会社の経営基盤をも大きく揺るがすなど、時代劇づくりの職能と基盤の崩壊に繋がりかねません。
 私たち映演労連は、時代劇づくりの職能と制作基盤維持に向けた支援の実施を強く要請いたします。

(10) アニメ産業の改革について

 日本のアニメーターの時間単価は、東京都の最低賃金を大幅に下回っているのが現状です。日本のアニメ産業の発展のために、経済産業省や文化庁、厚生労働省、大手制作プロダクション、テレビ局などが協力して、原画・動画単価の底上げや、偽装請負の「業務委託契約」ではないきちんとした雇用契約の締結、放送局とアニメ制作プロダクションとの公正な契約関係の確立などに向けて努力するよう要請いたします。

(11) 映画・映像スタッフの社会保障、労働条件の改善を

 映画・映像の制作現場は違法だらけで、セーフティーネットと呼べるものはほとんどありません。
 映画制作にかかわる者が、せめて他の産業分野の一般勤務者並みの保障の下に安心して仕事ができるよう、社会保障制度の適用やきちんとした雇用契約の締結、労働条件の改善を強く要請いたします。

以上
連絡先
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 映画演劇労働組合連合会(映演労連)
電話=03-5689-3970 FAX=03-5689-9585