映画の自由と真実ネット
ニューズレター   No.14(2001.6.22発行)  PART
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ハイテク技術で戦闘シーンに熱中、愛国心強調の粗雑・安易な超大作
   ─なぜいま『パール・ハーバー』か?

山田和夫(ネット代表委員・映画評論家)

 1942年12月8日(現地時間7日)、日本海軍の機動部隊は米太平洋艦隊のハワイ真珠湾基地を奇襲、日米は開戦した。7月14日公開のアメリカ映画大作「パール・ハーバー」(監督マイケル・ベイ)は、この真珠湾攻撃を最大のクライマックスとし、2人の米軍パイロットが同じ看護婦を愛するドラマをタテ糸として展開される。鳴り物入りの大宣伝にもかかわらず、6月7日の試写会で見た素直な感想は、何よりも出来の悪い大作、これまでのハリウッドの大作ではめったに見られない粗雑さ、安易さが目につく。そして「強いアメリカ」の再生を訴える露骨なメッセージが鼻につくのである。

 映画の宣伝では、戦争スペクタルというより、「風と共に去りぬ」や「タイタニック」を引き合いに出し、"世紀の大ロマン"とうたい上げているが、ベン・アフレック、ジョシユ・ハートネットVSケイト・ベッキンセールの三角関係はおよそ「ロマン」の味わいはない。ところが戦闘シーンとなると、最新のハイテク技術を駆使して、マイケル・ベイ監督(「ザ・ロック」「アルマゲドン」)はがぜん張り切る。30数分の真珠湾攻撃シーンはたしかに空前の迫力を見せるけれど、人間ドラマになると格段に見劣りがする。

 つまりハードの発達は誇示出来ても、そのハードを芸術的に使いこなすソフトが、大きく立ち遅れていること。ハリウッドのいまが抱える大きな矛盾がはっきり顔を出す。

 信じられないほどの粗雑と安易さを見せつけるのは、日本側の描写。マコ岩松扮する山本五十六連合司令官も品がなく、日本語のギゴチなさが耳につく。山本らが出席する作戦会議は、野外のプールで行われ、背後に大きな赤い鳥居が立ち、大きな軍艦旗が張り付けられる。そばにのぼりが立ち並び、「尊王」や「軍極秘」などと書かれているかと思うと、そばで子どもたちがタコを揚げて遊んでいる。日本人スタッフが一人でもいれば、到底採用されないようなシーン。日本公開版はその種のシーンをカットしたと伝えられているけれども、なおこの有様。30年前に同じ真珠湾攻撃を描いた「トラ・トラ・トラ」(1970年)では、さすがに日本側のシーンは日本人のスタッフにまかせ、少なくともそのような噴飯物の映像はなかった。ではなぜ、こうなったのか?

 それは映画が徹底的に対敵憎悪・蔑視を基調にし、これと対照的に日本軍奇襲に最初はなすところがなく殺されまくる米側から、勇敢に日本機に立ち向かう水兵やパイロットが出て来る。明らかにいまの観客に「強いアメリカ」再生をアピールするメッセージなのだ。だから「真珠湾」でドラマは終わらず、主人公のパイロットたちは"リメンバー・パール・ハーバー"の反撃──1947年4月18日の日本本土初空襲に参加、中国に不時着して一人は日本軍に殺されるところまで描く。ブッシュ政権の路線とも呼応する米愛国心の高揚だ。そこにはハリウッドが政治に便乗しつつ、世界市場を「戦争」と「ロマン」で制覇しようとする退廃の相がある。

 他方、真珠湾攻撃をめぐっては、ルーズベルト大統領は日本軍のハワイ攻撃を知っていて、太平洋艦隊を意図的に見殺しにし、米国民を対日戦に誘導したとする説があり、こんど文芸春秋が出版する、ロバート・スティネット著『真珠湾の真実』も、新史料によってルーズベルト陰謀説を立証するものと言う。それが「真実」であれば、真珠湾攻撃は「奇襲ではなかった」、だから日本が攻められるいわれはないとする、太平洋戦争肯定派の言い分である。しかし、対米開戦は1931年にはじまる日本の本格的中国侵略が泥沼化したあげく、活路を求めての大バクチであり、それが1945年の悲惨な敗戦につながったことは周知の通り。ルーズベルト陰謀説がどうであれ、日本の戦争責任は免れようがない。

 今回、国際的な物議をかもした「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が出版された。それによると、太平洋戦争も真珠湾攻撃も、まるで戦時中の文章かと見間違えるほど、手ばなしの賛美ぶりでおどろかされる。

 そんな状況下で大公開される「パール・ハーバー」であること、つまり単なる大作映画の出来栄えがどうであるか、にとどまらず、現在における歴史認識の問題の新しい提起として、しっかり見すえ、考えておかなくてはなるまい。(2001・6・15)


【お薦め映画評コーナー】……………………伴  毅

ダイオキシンの夏

 76年に起こったセベソ事件を題材にして、ダイオキシンなどの化学物質の恐ろしさを描いた長編アニメ。

 1976年7月、北イタリアの小さな町で化学工場の爆発事故が起こり、噴出した白い粉がセベソの町に降り注いだ。やがて、鳥やウサギなどの小動物が次々と死んでいき、町の人々も発疹や頭痛、吐き気に苦しめられた。11歳のジュリアとその友人たちは「セベソ探偵団」を結成し、その謎に迫っていく。そして、白い粉に含まれていた猛毒ダイオキシンのことが次第に明らかになっていった。

 ダイオキシンとは、ポリ塩化ジべンゾ−パラ−ジオキシンの略称で、酸素と炭素と水素と塩素が結びついた物質です。よく似た性質を持ち「カネミ油症事件」の原因となったポリ塩化ジベンゾフランとコプラナーPCBを含めてダイオキシン類ともいいます。分解されにくく、水に溶けないで脂肪によく溶ける性質を持っているので、生物に取り込まれると排泄されにくく、食物連鎖のなかでどんどん濃縮されていきます。そしてその毒性は凄まじく、1グラムでモルモット83万匹を殺す力があります。これは青酸カリの約千倍、サリンの2倍になります。さらに慢性の毒性があり、1ナノグラム/キログラム/日、つまり1日に体重1キロあたり10億分の1グラムを超えるダイオキシンを摂取すると、つよい発ガン性を現すとされています。

 現代の日本では、まだまだ実態は明らかにされていませんが、ダイオキシンの発生はほとんどがゴミ焼却場からだとされています。しかし、世界中のごみ焼却場の7割が日本にあるというぐらい焼却場の多い日本では、ダイオキシンの発生も多く、大都市の比較では10倍ぐらいのダイオキシン濃度になっているそうです。したがって、この焼却場から出るダイオキシンの対策が緊急の課題となっています。

 そういう点では、セベソ事件の教訓をそのまま日本に当てはめるということはできませんが、ダイオキシンという人間が作り出した物質がどれだけ恐ろしいものか、どんな悲惨な事態を引き起こすのかを知ることで、日本のダイオキシンをはじめとする環境問題を考える上での絶好の機会になるでしょう。

 そして、映画の見所は、どこまでも真実を追究しようとする子供たちの姿勢です。工場にもぐりこみ、市長の代理と偽って会社幹部と会談し、記者会見場で真相を追究する。その行動力と信念には脱帽です。とくに市長の息子のエンリコは、市民の避難のために不眠不休で働いている父親に対しても「被害を大きくしたのは、事件後すぐに手を打たなかった父親のせいではないか」と追及の手をゆるめません。そういう子供たちの姿に、地球の未来への希望を見ることが出来るでしょう。

 ぜひ、子供たちと見て、環境問題などについて語りたい内容です。この映画を見て、夏休みの自由研究の題材にするというのはどうでしょうか。
《8月18日より8月31日まで、シネ・リーブル池袋でモーニング・ロードショウ》


【情報コーナー】

*松竹労組が「新撮影所促進署名」運動を強化!
松竹労組は、遅々として進まない新撮影所建設を促進するために、「新撮影所促進署名」運度を強化することにしました。署名用紙はこちらから。

*山田和夫さんと行く「ロシア/映画と歴史の旅」に参加しませんか。
 8月25日〜9月2日、エイゼンシュティンゆかりの地を訪ねるリガ、モスクワ、サンクトペテルブルグ9日間のツアーが企画されています(主催/富士ツーリスト)。世界的な映画人(ノルシュティンやソクーロフ)との出会いも予定されています。参加しませんか。申し込みはフリーダイヤル0120-898928。締切は7月13日。

*西部マスコミが9月21日『郡上一揆』上映会
 西部マスコミ(新宿地区を中心としたマスコミ労働組合のグループ)が、神山征二郎監督の映画『郡上一揆』の上映会を行ないます。9月21日(金)18:30〜四谷区民ホールです。名作『郡上一揆』未見の方、これを機会にぜひ見て下さい。問合せ先=0429−84−1451(日本標準労組/佐藤孝)

*『ホタル』の降旗監督を呼んで「集い」を計画中
 映画の自由と真実ネットは秋のイベントとして、『ホタル』の降旗康男監督を講師に招いた「集い」を計画中です。ご期待ください。また9月7日(予定)には、亀山文夫監督の名作ドキュメンタリー映画『日本の悲劇』上映会を企画しています。決定次第、お知らせしますので、ぜひご参加ください。

*映画議員連盟は6月26日に総会を開き、綿貫衆院議長が新会長に就任します(読売新聞)。

●編集後記じめついた毎日です。日本映画もじめついていますが、体調にお気をつけください。


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