2007年5月15日
文化庁長官 青木 保 殿
映画演劇労働組合連合会
中央執行委員長 高橋邦夫

2007年映画振興に関する要望書

 日本映画製作者連盟が今年1月30日に発表した「2006年映画統計」によると、邦洋の興行収入比は邦画53.2%(1077億5200万円)、洋画46.8%(948億200万円)で、21年ぶりに再逆転しました。邦洋再逆転の要因は、ハリウッド映画の後退と、興行収入50億円超の作品が6本も出るなど日本映画の「健闘」です。
 しかし、興行収入は全体としては横ばい(2025億5300万円/前年比102.2%)、入場者数も1億6427万7000人(前年比102.4%)と微増で、2004年の1億7009万人を回復していません。
 スクリーン数は3062スクリーン(136増)で、シネコンが2230スクリーン、73%を占めました。しかし非シネコン館の閉館も相次ぎ、映画館ゼロ都市が増えています。1スクリーン当たりの興行収入も、2004年7466万円→2006年6615万円と減少しています。
 興収10億円以上の作品28本の興収合計は783億9000万円で、邦画興収の72.8%を占めています。日本映画の公開本数は417本ですから、残り389本の平均興収はわずか7500万円になります。
 20年ぶりの邦洋再逆転と言っても、興収と入場者数の横ばい、シネコンの急増と映画館ゼロ都市の増加、テレビ局を中心とした派手な大宣伝映画へのヒット集中、1スクリーン当たりの興収の減少など、日本映画の厳しい状況は続いています。
 こうした現状に鑑み、私たち映画演劇労働組合連合会(映演労連)は、下記の通り日本映画への公的支援のいっそうの拡充と、効果的な振興策の実施を強く求めるものです。

(1) 国民に映画文化に接する機会均等の保障を

 シネコンが増加する一方で、映画館ゼロ都市も増えています(2006年末現在、516都市、66.3%)。国は、日本国民に映画文化に接する機会の均等を保障する義務があります。多様な映画の鑑賞機会を保障するため、「新たな上映機会の提供」事業の大幅な拡充を求めます。
 また、そのためにも地方映画祭への支援の拡大、各地の会館・ホールへのデジタル・プロジェクターの配備、プロジェクターの貸出事業などを進めてください。

(2) 日本映画優先上映網の確立・拡大を

 今、日本映画の上映支援策で一番求められているのは、日本映画の出口の確保、つまり日本映画優先の上映網の確立・拡大です。 日本映画の製作本数は増えているにもかかわらず、シネコンによるハリウッド映画や大宣伝映画優先の上映方式、興行チェーンなどによって、上映機会を狭められています。
 私たちは日本映画優先の上映網の確立と、日本映画優先上映館への支援を求めます。そのために、映画産業関係者との協議をぜひ進めてください。

(3) 日本芸術文化振興基金の抜本的増資を

 文化庁の公的支援の考え方は「トップレベルへの重点支援」と「裾野への支援」ですが、「裾野への支援」の基盤である日本芸術文化振興基金は、設立以来あまり増えてはいません。基金による平成19年度の助成対象も劇映画7件1億2000万円、記録映画5件1900万円、アニメ1件2000万円にとどまっています。
 私たちは、日本芸術文化振興基金の抜本的増資を要請するとともに、基金による映画製作活動への支援の拡大と、系統的な支援の継続を要望します。
 また、「重点支援」による「映画製作への支援」も予算が年々減少していますが、拡充・継続してください。支援作品名の公表も、引き続きお願いいたします。

(4) 見る側への支援を

 現在の日本映画振興策には、見る側への支援がありません。例えば、文化庁が製作支援した映画の上映については、映画料や上映会場費への助成、上映映画館への奨励金の支給などを通じて入場料金が下がるような措置を検討してください。

(5) 撮影所への支援をぜひ

 撮影所は、映画文化を生み出す製作基地です。しかし、保守・修繕費、固定資産税など、撮影所を維持するだけで多額の費用がかかり、映画各社の撮影所は経営的に苦しんでいます。しかも撮影所への公的支援はまったく行われていません。私たちは撮影所への固定資産税の減免、スタジオ等のリニューアルへの支援(税制支援、減価償却年数の延長、損金処理など)、用途地域の見直しなどを強く求めます。
 また、「12の提言」が言及した「撮影用の屋外セットの確保」についても、文化庁としてもその実現に向けて積極的に取り組むよう要望します。

(6) 時代劇文化の維持に向けて

 時代劇は日本の独特の文化ですが、その伝統と職能を維持することが年々厳しくなってきています。時代劇文化を維持するための公的支援をご検討ください。

(7) 東京都でのフィルム・コミッションの充実を

 全国にフィルム・コミッションが設立されて、映画の撮影がやり易くなりましたが、東京都ではまだまだ撮影が不便です。東京都でのフィルム・コミッションの充実を強く要望します。

(8) 本格的な人材育成策の実施を

 平成16年度から始まった「人材育成支援事業」は、映画製作をめざす学生に1〜3ヶ月の実践の場を提供するにとどまっており、人材育成には不十分です。
 私たちは、映画業界と連動した本格的な人材育成制度の実施を求めます。撮影所や製作プロダクションでの人材育成を支援する制度を、ぜひ実現してください。
 また、「短編映画支援による若手映画作家の育成」(1億5500万円)については、35ミリ製作の短編劇映画に限定するのではなく、ビデオ撮影等によるドキュメンタリー映画支援にも道を拓くよう要望します。

(9) フィルムセンターの早期独立と、すべての映画の保存を

 「12の提言」の柱であった、すべての映画のプリントを保存する事業の早期実施を求めます。またフィルムセンターの早期独立、人件費予算の増を求めます。

(10) 「アニメ産業改革の提言」に基づく改革を

 私たちが2006年1月23日に提起した「アニメ産業改革の提言」を受け止め、日本のアニメーション文化を守るために、文化庁としてもアニメ産業の歪んだ構造にメスを入れ、アニメ労働者の救済と育成に向けて関係省庁、関係諸団体と連携して行動を起こしてください。

(11) 映画従事者の社会保障と労働条件の改善を

 貴庁の要請で芸団協が行った映画映像スタッフとアニメーターの「活動実態調査」結果を重視し、「12の提言」が「映画製作にかかわる者が、他の産業分野の一般勤務者並みの保障の下に、安心して仕事ができるよう、国は、環境の整備に努める必要がある」と述べたことを、一日も早く実行してください。
 私たちはまず、フリー契約者も加入できるような雇用保険制度の改革を強く求めます(例えば、雇用保険料の事業主負担分は作品の製作費で持ち、個人負担分はギャラから天引きする。一定以上の年間労働日数を働いたものが1ヶ月以上失業したときに支給される、など)。
 また、全国のシネコンで働く非正規雇用労働者の活動実態を調査してください。

以上
連絡先
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