2016年5月9日
文化庁長官 宮田 亮平 殿
映画演劇労働組合連合会
中央執行委員長 金丸 研治

2016年日本映画文化の振興に関する要望書

 映画製作者連盟の発表によれば、2015年の映画入場者数は1億6663万人(前年比103.4%)、興行収入は2171億1900万円(前年比104.9%)となっています。
 これは歴代2位の好成績ですが、その内容は洋画の伸長と、アニメーション映画のヒット集中によるものです。邦画の興収は1203億6700万円(公開本数581本)ですが、興収10億円以上の40本で898億円を占めており(邦画興収の74.6%)、残り541本の平均興収は5650万円に過ぎません。
 また、膨大な数の旧作フィルム映画は、ビネガーシンドローム等による滅失の危機に直面しています。日本映画文化の維持と振興に向けた公的支援の拡充がどうしても必要です。
 私たち映演労連は、下記の通り日本映画への公的支援のいっそうの拡充と、効果的な日本映画振興策の実施を強く求めるものです。ぜひとも真摯なご検討をお願いいたします。

1. フィルム映画文化の維持と映画原版保存に向けて

 膨大な旧作フィルム映画の劣化とデジタル製作の急増は、フィルム映画文化の維持と映画原版保存について待ったなしの状況を生んでいます。特に、ビネガーシンドローム等による滅失の危機に直面している旧作フィルム映画については、早急な対応が必要です。

(1)映画各社は「ビジネス価値」等による優先順位を付けて旧作フィルム映画のデジタル修復に取り組んでいますが、そこから外れた映画は滅失してしまいます。経済産業省などと協力し、旧作フィルム映画の4Kによるデジタル化及びその保存について、ぜひとも公的支援を開始してください。

(2)フィルム映画原版をフィルムで再保存することを勧め、これについても公的支援をお願いします。

(3)ボーンデジタル映画の原版保存については、LTOによる保存を行う映画会社が増えつつありますが、マイグレーション費用が大きな足かせになっています。この分野でも公的支援が不可欠です。映画会社に任せるだけでなく、ぜひ公的支援をお願いいたします。 なお貴庁は、「映画におけるデジタル保存・活用に関する調査研究」を進めていますが、その中間報告をお聞かせください。

(4)オーファンフィルムの権利関係等の調査を貴庁の責任で迅速に進めるとともに、公的機関等での保管・修復と、国民が利用できるシステムを構築してください。

(5)映画保存についての法制化(法定納入制度の実施、税制優遇措置によるフィルム納入の促進等)を改めて検討してください。「任意の寄贈」に頼っていては、すべての映画の保存は実現できません。

2. フィルムセンターの早期独立とアーカイブ事業の拡充を

 東京国立近代美術館フィルムセンターの早期独立を進めるとともに、フィルムセンターの人員を増員し、ボーンデジタル映画を含めたフィルムセンターのアーカイブ事業を拡充してください。
 また、フィルムセンターはラボ機能を持つべきだと考えます。フィルム部門が収支を圧迫している民間企業に委ねるのではなく、フィルムセンターが自前でラボ機能を持ち、フィルム現像の技術と人材を継承・育成することをぜひ前向きに検討してください。

3. フィルム映写機の保存と修理・メンテナンス、部品供給に支援を

 フィルム映写機の生産が中止となり、膨大な量のフィルム映画が近い将来、上映できなくなる事態が想定されます。フィルムセンターが保存するフィルム映画も活用できなくなるおそれさえあります。フィルム映画文化を守るために、フィルム映写機の保存と修理・メンテナンス、部品供給等についての実態調査の開始と、公的支援の開始を強く要請します。

4.日本映画への公的支援の拡充と審査の公平化を

(1)文化庁、並びに日本芸術文化振興会による日本映画への支援予算は年々減少し、平成28年度予算も11億9000万円に過ぎません(日本映画の創造・交流・発信7億円、若手映画作家等の育成1億6100万円、アニメーション映画製作支援1億1900万円、若手アニメーター等人材育成(OJT)2億1000万円=11億9000万円)。
 しかし日本映画の現状は、公的支援のいっそうの拡充を求めています。来年度予算では、日本映画への支援額をせめて最高時(平成16年度25億100万円)に戻してください。

(2)日本芸術文化振興会は一昨年、「映画の公開による収益の納付に係る手続きについて」を発表し、5年間にわたってすべての収益を返却の算定対象にしました。これは、助成金の本質に反するものであり、製作助成金の意義を半減させ、助成金を申請しづらくさせ、ひいては多様な映画の製作機会を減少させるものです。 私たち映演労連は「納付基準」の撤回と、製作支援のいっそうの拡充を要請します。

(3)芸術文化振興基金による日本映画の製作支援決定に当たっては、政権等からの圧力を排し、審査の専門性と公正性、透明性を徹底するよう強く要請します。

(4)「映画関係団体等の人材育成事業の支援」はわずか4100万円であり、本格的な人材育成策とは言い難いものがあります。私たちは、映画業界と連動した本格的な人材育成制度の実施を求めます。

5. アニメ産業の改革について

 アニメーターの時間単価は東京都の最低賃金を大幅に下回っており、アニメ制作プロダクションのブラック化も喧伝されています。
 アニメ文化と産業の発展のために、貴庁や経済産業省、厚生労働省、日本動画協会、大手アニメプロダクション、テレビ局などが協力して、原画・動画単価の底上げやきちんとした雇用契約の締結、社会保険への加入、放送局とアニメ制作プロダクション、元請けプロダクションと下請けプロダクションとの公正な契約関係の確立、制作現場への支援などに向けて努力するよう強く要請いたします。

6. 映画・映像スタッフの社会保障、労働条件の改善を

 貴庁が2003年4月に発表した「日本映画振興について〜日本映画の再生のために〜」と題する「提言」は、「映画製作にかかわる者が、他の産業分野の一般勤務者並みの保障の下に、安心して仕事ができるよう、国は、環境の整備に努める必要がある」と述べています。
 しかし、「提言」の発表から13年が経過していますが、映画・映像の制作現場における労働環境の整備はまったく進んでいません。映画制作にかかわる者への社会保障制度の適用やきちんとした雇用契約の締結、労働環境と労働条件の改善に本腰を入れて取り組むよう強く要請いたします。
 特に、契約スタッフの労災保険の適用、「業務委託契約」に名を借りた労基法脱法行為の一掃に向けて貴庁からも関係各部署に強く働きかけて下さい。

7. 文化庁の京都移転反対

 文化庁を京都に移転する計画が進められていますが、文化庁の任務は文化財の保存だけではありません。また、映画・映像の製作拠点は首都圏に集中しています。文化庁の京都移転は、映画映像文化への支援をはじめ文化行政全般の後退を招きかねません。私たち映演労連は、文化庁の京都移転に強く反対します。

以上
連絡先
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
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