2016年6月29日
経済産業省
経済産業大臣 林 幹雄 殿
映画演劇労働組合連合会
中央執行委員長 金丸 研治

2016年映画産業の振興に関する要望書

 映画製作者連盟の発表によれば、2015年の映画入場者数は1億6663万人(前年比103.4%)、興行収入は2171億1900万円(前年比104.9%)となっています。
 これは歴代2位の好成績ですが、その内容は洋画の伸長と、アニメーション映画のヒット集中によるものです。邦画の興収は1203億6700万円(公開本数581本)ですが、興収10億円以上の40本で898億円を占めており(邦画興収の74.6%)、残り541本の平均興収は5650万円に過ぎません。
 また、膨大な数の旧作フィルム映画は、ビネガーシンドローム等による滅失の危機に直面しています。日本映画文化の維持と振興に向けた公的支援の拡充がどうしても必要です。
 私たち映演労連は、下記の通り日本映画への公的支援のいっそうの拡充と、効果的な日本映画振興策の実施を強く求めるものです。ぜひとも真摯なご検討をお願いいたします。

1. フィルム映画文化の維持と映画原版保存に向けて

 膨大な旧作フィルム映画の劣化とデジタル製作の急増は、フィルム映画文化の維持と映画原版保存について待ったなしの状況を生んでいます。特に、ビネガーシンドローム等による滅失の危機に直面している旧作フィルム映画については、早急な対応が必要です。

(1)映画各社は「ビジネス価値」等による優先順位を付けて旧作フィルム映画のデジタル修復に取り組んでいますが、そこから外れた映画は滅失してしまいます。経済産業省などと協力し、旧作フィルム映画の4Kによるデジタル化及びその保存について、ぜひとも公的支援を開始してください。

(2)フィルム映画原版をフィルムで再保存することを勧め、これについても公的支援をお願いします。

(3)ボーンデジタル映画の原版保存については、LTOによる保存を行う映画会社が増えつつありますが、マイグレーション費用が大きな足かせになっています。この分野でも公的支援が不可欠です。映画会社に任せるだけでなく、文化庁の「映画におけるデジタル保存・活用に関する調査研究」の情報なども共有しつつ、ぜひ公的支援をお願いいたします。

(4)文化庁と連携して、オーファンフィルムの権利関係等の調整とともに、コンテンツを再活用できるシステムを構築してください。

2. フィルム現像産業の維持、フィルム映写機の保存と修理・メンテナンスに支援を

(1)映画の撮影・上映のデジタル化が進み、フィルム生産量が激減する中、フィルム現像各社は存続危機に瀕しています。フィルム現像のノウハウが枯渇すれば、膨大な旧作や一部新作フィルムの現像が困難となり、映画産業に多大な損失を与えてしまいます。クールジャパンの一翼を担っている、フィルム現像の技術・職能の維持継続・拡大のための公的支援を強く要請します。

(2)フィルム映写機の生産が中止となり、膨大な量のフィルム映画が近い将来、上映できなくなる事態が想定されます。フィルム映画の膨大なコンテンツを守り、活用するために、フィルム映写機の保存と修理・メンテナンス、部品供給等についての実態調査の開始と、公的支援の開始を強く要請します。

3. 人材育成事業の拡充を

 文化庁、並びに日本芸術文化振興会による日本映画への支援予算は年々減少し、「映画関係団体等の人材育成事業の支援」はわずかであり、本格的な人材育成策とは言い難いものがあります。映像産業振興機構では文化庁の委託を受けて2006年より「若手映画作家育成プロジェクト」をスタートさせ、2015年にはコンテンツ業界のリーダー育成を目指した「VIPOアカデミー」を開設していますが、現在もっとも深刻化している制作現場の技術スタッフの人材不足には対応できていません。経済産業省としても、産業基盤の根幹をなす人材の育成制度を、映画業界と連動して実施していただくよう強く要請します。

4.アニメ産業の改革について

 アニメーターの時間単価は東京都の最低賃金を大幅に下回っており、アニメ制作プロダクションのブラック化も喧伝されています。
 クールジャパンの根幹をなすアニメ文化と産業の発展のために、貴省や文化庁、厚生労働省、日本動画協会、大手アニメプロダクション、テレビ局などが協力して、原画・動画単価の底上げやきちんとした雇用契約の締結、社会保険への加入、放送局とアニメ制作プロダクション、元請けプロダクションと下請けプロダクションとの公正な契約関係の確立、制作現場への支援などに向けて努力するよう強く要請いたします。

5. 映画・映像スタッフの社会保障、労働条件の改善を

 映画・映像の制作現場は違法状態が蔓延しており、労働環境の整備はまったく進んでいません。映画制作にかかわる者への社会保障制度の適用やきちんとした雇用契約の締結、労働環境と労働条件の改善に本腰を入れて取り組むよう強く要請いたします。
 特に、契約スタッフの労災保険の適用、「業務委託契約」に名を借りた労基法脱法行為の一掃に向けて貴省からも関係各部署に強く働きかけて下さい。

以上
連絡先
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 映画演劇労働組合連合会(映演労連)
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