アニメ産業改革の提言2018

 市場規模が2兆円を突破するなど日本アニメ産業の伸長が際立つ一方で、困窮するアニメーターの生活実態は2005年に本格調査が開始されて以降、改善の兆しが見えない。
 「アニメーション制作者実態調査報告書2015」によれば、若手が多いとされる動画や第2原画就業者の平均年収は110万円程度、アニメーター全体の月の作業時間は月平均262.7時間と、10年前の調査とほぼ変わらない過酷な実態が示されている。離職率についても「2年で8割」との定説を否定するデータはなく、概ね高い離職率であることは間違いない。
 加えて、動画や仕上パートなど中国をはじめとする海外労働力への依存による人材の枯渇という点でも、日本アニメ産業の危機的状況は加速している。
 私たちは労働現場の疲弊が改善されない限り、日本アニメに展望を見出すことはできないと考え、関係各方面に対して下記の内容を提言する。

1.アニメーター、アニメ労働者の労働環境改善について

 アニメーター、アニメ労働者の労働環境が劣悪であることは周知の事実となっている。しかし、その改善は遅々として進まず、労働環境の劣悪さは特に下請・孫請の制作現場を直撃している。
 また、下請・孫請の制作現場では、多くのアニメーターが「雇用契約によらない働き方」を余儀なくされていることから、労働基準法の保護すら受けられない状態となっている。このことがアニメーターの長時間・低賃金というスタイルを招来していることは、紛れもない事実である。

(1)最低賃金を下回る試用(研修)期間の原則禁止

 アニメ制作会社採用募集時のトラブルとして、試用(または研修)期間が挙げられる。業務命令による研修に際して賃金を支払わない、最低賃金以下の報酬で研修を義務付けるなどの違法行為が今なお散見される。採用前後の研修や試用期間など名目を問わず、業務指示による労働者の拘束については全て労基法適用下にあることを全てのアニメ制作会社に周知徹底するとともに、最低賃金を下回る試用(研修)期間を原則禁止し、その実践を促すことを提言する。
 あわせて、職業紹介事業者についても依頼者である各事業主に対して同様の確認を行うよう指導することを提言する。

(2)労働条件の書面による事前明示と契約締結

 アニメーターの就労後、報酬や期間など書面による事前の条件確認がされていないことによる紛争が絶えない。たとえ口約束であったとしても契約が成立することは間違いないが、それだけでは事後の紛争を防ぐには不十分である。
 雇用契約はもちろん、個人事業主(委託・請負等)契約であっても「報酬計算ならびに支給方法」「契約期間」「就労内容と場所」「拘束時間」「退職(または契約解除)」などの重要事項については事前に書面にて明示し、契約を締結することを全てのアニメ制作会社で実施するよう提言する。

(3)偽装請負の解消

 アニメ制作会社において指揮命令や長時間に及ぶ拘束がありながら、労基法適用を逃れるため多くのアニメーターが個人事業主(業務委託契約や請負契約等)としての就労を余儀なくされている。このため、長時間労働など安全衛生管理の欠如や、労働保険・社会保険の対象除外、給与所得でないことによる税法上の問題も生じている。また、低賃金かつ社会的保障が得られないことから、若手アニメーターが定着せず、既に人材の枯渇という危機にも晒されている。
 一方、契約の形式によらず実態が「指揮命令がある」「拘束がある」「仕事の応諾の自由がない(=個人判断で外注に回せない)」「高い報酬と言えない」場合は、労働基準法の適用が義務付けられる。これに反した個人事業主契約の横行こそがアニメーターの処遇を巡る根本問題とも考えられる。この偽装請負の解消が急務である。
 なお、労基法適用を免れるために社内の備品使用料を徴収するなど悪質な例も多発しているが、実態に即して判断すれば違法(偽装請負)の上の違法(労基法24条=賃金支払い)となることも周知される必要がある。
 そこで、アニメ制作過程において恒常的な就労が見込まれる場合は、原則として雇用契約の締結を義務付けるよう提言する。

(4)報酬の最低保障設定

 多くのアニメ制作会社では労働者の賃金体系を固定給+歩合で設定している。歩合給そのものは否定しないが、業務量の多寡によって大きく変動する収入では安定した生活が築けず、時には最低賃金を下回るといった違法状態を招きかねない。
 現状、多くのアニメーターが月額10万円以下(「実態調査2015」=月10万円以下36.6%)の固定給で拘束されている実態を改善し、月額報酬の最低保障を166,000円(但し2018年現在東京都最賃958円×173時間/月)とすることを業界ルールとして設定するよう提言する。

(5)長時間・深夜労働の改善

 アニメ制作会社の長時間労働是正に向けて、元請け大手を中心に具体的な取り組みが行われている点は評価する。しかし一方で、元請け大手が業務を外注に回すケースも増えており、依然として中小の下請・孫請の長時間過密労働が改善される目途は立っていない。特に制作進行の就労実態では24時間を2交代勤務で補うなど過酷な実態も報告されている。
 こうした長時間過密労働を解消するため、業界ルールとしてインターバル規制(就労終了時から次の就労開始までの連続した休息の確保)11時間を設けるよう提言する。

(6)労働組合の活用

 労働組合の存在によって経営の健全性やコンプライアンスといった点で自主的な解決策を見出すことが可能となるほか、アニメ産業に公正な競争環境を実現する点でも労働組合はその力を発揮できると考える。36協定の締結をはじめとして安定した労使自治は社会的な要請でもあることを認識し、全てのアニメ制作会社に労働組合の結成を促すよう提言する。
 同様の視点で、アニメーションにかかわる全ての労働者に労働組合への加入を呼びかける。

2.公的支援の在り方について

 経産省・文化庁による人材育成事業、中小企業庁による労働環境向上助成金(団体助成コース)、各自治体で実施される移転費用・家賃・オフィス斡旋等々、アニメ制作会社が活用可能な公的支援事業については、その拡充を求めるとともに、原則として申請事業者が労働基準法の適用など適正な労働環境を維持していることを条件とするよう提言する。

以上
2018年5月30日
映画演劇労働組合連合会(映演労連)
中央執行委員長 金 丸 研 治

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